らんたふぁん

気鋭のエッセイストらんた(id:lantan2015 )氏の文章を題材に、小説について考える。

待望の新作エッセイ「無い。無い。無い。SFラノベが、無い!!」について

本日11月3日の17時、らんた(id:lantan2015 )氏の、実に五か月ぶりの新作、「蘇れ!SFラノベ!!」が公開された。ここ最近は近況ノートや旧作の加筆といった細かい活動が多かったので、純粋ならんたエッセイの新作が久しぶりに読めることになる。


ランキングを探しまわって気が付いたことがある。投稿サイトのポイントの話じゃない。実売数の話だ。つまり本当の意味での評価だ。そこに70年代から90年代まで花形だった「SFラノベ」がほとんと言っていいほどランクインしなくなったんだ。特に10年代後半から。

SFラノベ、復活しなきゃラノベジャンル自体がピンチじゃね?って事に。

「若者のライトノベル離れ 約7年で市場半減のショック」(旧キャッチコピー「ラノベ市場半減!! 中年読者を優先させた結果「追放ざまぁ」に」)でも、おまけの一章を割いて語っていた、ラノベのおけるSFの「消失」問題について、さらに掘り下げる連載となるようである。

ちなみに、らんた氏の活動においては驚くほどのことではないが、この数時間の間に既に改稿があり、本文・章タイトル等に大きな変化が発生している。そのため以下では随時、旧バージョンも参照しながら話を進めていく。




第1話 無い。無い。無い。SFラノベが、ほとんど無い!!

この時点で切迫感が伝わってくる、まるで和太鼓のような小気味よい繰り返しが光る章タイトルである。

しかし、実はこのタイトルは数時間前にはこういう形になっていた。


第1話 無い。無い。無い。SFラノベが、無い!!

見ての通り、「ほとんど」が無い!!のである。

余計な条件を付けずすっぱりと言い切るこちらの方が明らかに力強い形であり、最初に見た時には、これぞらんた節だ!と快哉を叫んだものだが、いかなる理由によるものか、いつの間にか無粋な「ほとんど」が追加されてしまった。

先日も言及した、奇妙な弱腰というらんた氏の異変は、いまだに続いているのだろうか。


さて、本文の内容に入っていく。

『若者のライトノベル離れ』という書評を書いてて追加した記述がある。SFラノベが売上ランキングに無いのだ。いや、お前MMOの世界に転生~とかあるだろというツッコミもあるだろうがそれは前作『若者のライトノベル離れ』で否定した。それをSFと認めたら「乙女ゲームの世界に転生した系もSFになってしまう」と。よってMMORPGの世界に転生した系のものは純粋に「異世界転生ファンタジー」系にジャンルを変更してもらいたい。

MMORPG系はSFではない、と一刀両断である。

どうも、ゲーム内(に近い)世界に転生するものと、VRMMOものを区別していない節があるが、その程度の細かい違いはらんた氏にとっては誤差に過ぎないのだろう。

続いて、ここ最近よく引用しているオリコンの週刊ランキングを三週分提示することで、ランキング上位にSFラノベが存在しないことを示している。

ここで若干ふしぎなのは、引用されているランキングが「10月16日~10月22日」「9月25日~10月01日」「9月18日~9月24日」のものであるということだ。どういうわけか、10月の1週目と2週目を飛ばしている。

気になって実際のランキングを確認してみたが、それでも理由はよく分からない。


強いていうなら、「ストライク・ザ・ブラッド」がランクインしていることぐらいだが、SF作家として(も)知られる著者とはいえ、「ストブラ」自体は基本的にファンタジーに分類される作品だろう。やはり謎である。

『若者のライトノベル離れ』の書評には思わぬ副産物が見つかった。SFラノベが、無い。もうひとつ見つかった。歴史系ラノベはどうなのだと。でも歴史系は『項羽と劉邦、あと田中』とか『淡海乃海 水面が揺れる時』とか『緋色の玉座』とか『皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし』とかいくらでもここ約10年でビッグタイトルはあるわけ。つまり歴史系ラノベって当たるとデカイって事だな。じゃあSFは? 特にここ約10年。

 ヤバイよね。あるにはあるんだけど。そりゃSFラノベにもビッグタイトルはありますよ。でも割合としてどうなの?

と、現バージョンでは割合の問題としている部分だが、ここは旧版ではこうなっている。


つまり歴史系ラノベって当たるとデカイって事だな。じゃあSFは?

――ないよね。

2倍ダーシからの「ないよね。」。

これである。これこそがらんた節なのである。痺れる。

たしかに、「ない」とはっきり言い切ってしまえば、つまらない些末なツッコミを浴びる危険性は高まるだろう。だが、そこで弱気になって腰の引けた書き方をしてしまうのでは、らんた氏の魅力が半減してしまう。そのことを本人にも理解してもらいたいのだが……

嘘だと思うのならオリコンラノベ売上ランキングでどの週でもいいからMMO系以外のSFラノベがあるかみてみ?

 ほとんど無いだろ。

嘘だと思うのならオリコンラノベ売上ランキングでどの週でもいいからMMO系以外のSFラノベがあるかみてみ?


 無いだろ。え? アニメ化までしたSFラノベはここ10年であるって? それいくら売れました?

売れてないものは存在しないのと同じ。それでいいではないか。なぜに「ほとんど」などという凡人のような逃げを打ってしまうのか。

「SFファンの閉鎖性によって日本のSFは衰退した」

 という声をよく耳にするもんな。でもそれはラノベじゃない純粋な大衆文学のSFでラノベは違うだろうって思ったわけ。違うよ。逆なんだよ。裾野を壊したから中核にまで衰退が及んだわけ。要は「初心者お断り」とか「SF? うわー、つまらなそう」ってなったからこんな惨状になったわけ。

 逆だよ!! 僕のようにSFに1ミリも興味の無い人間をお客に引き込まないとSFラノベは日本では絶滅危惧種になっちゃうわけだよ。そうだろ?

論旨がいまひとつ掴みにくいが(「ファンの閉鎖性」というSFの衰退理由がラノベSFにも適用されると言ってるのかそうでないのか?)、らんた氏が「SFに1ミリも興味の無い人間」であることは伝わった。

当該ジャンルに1ミリも興味がないにもかかわらず、その危機にあたっては警鐘をならさずにはいられない。まさにらんた氏こそは現代の石動雷十太と呼ぶべき存在であろう。

ここから、旧版と現バージョンで流れが大きく異なる。まずは最新版の方を見ていこう。

 でさー、この「理科離れ、数学離れが深刻な日本」でどうして科学に興味を持たせる文学が書けないのかな~って思ってるんだよ。

 でね、どうしてそういう「理科嫌い」・「数学嫌い」の人のための文学を書かないのか不思議でならないんだよ。このわざと落ちこぼれを作って来る日本という国でSFというものに興味を持たせるにはどうすればいいんだろうってなんで考えないのかなって。

実際に理系離れがSF離れの根本的な原因かどうかはともかく、まずまず穏当な結論であるとは言えるだろう。

では次に旧版。こちらでは、ラノベと違って児童文学ではSFが生きている、という主張がなされている。

じゃあ児童文学は? 児童文学のSFは? この少子化のご時世にも関わらず児童文学市場は過去最高記録更新中だよね? あるんだよ。つまり児童文学の世界ではSFはちゃんと生きてるんだよ。

 ――なんで児童文学の成功例を模倣しないんだ?

 そうなんだよ。ここでも児童文学に負けてるわけ。嘘だと思うのなら児童文学の棚みてみ。児童文学だから「初心者お断り」みたいな態度取ってねえだろ。だから売れるんだ。

らんた氏の児童文学への高評価は、「若者のライトノベル離れ 約7年で市場半減のショック」(旧キャッチコピー「ラノベ市場半減!! 中年読者を優先させた結果「追放ざまぁ」に」)以来のお家芸である。児童文学という棍棒を振り回し、畳みかけるようにラノベのだらしなさを追求する展開が気持ちいい。

そしてとどめがこれ。

小説ではないが『空想科学読本』に至っては平積みだぞ? それが現実なわけ。つまりSFラノベというジャンルを壊したのは、読者である、お前だ~!

って事なんだ。

お前だ~!

まるで上質な怪談のような綺麗なオチによって、読者にSFラノベ衰退の当事者としての責任を自覚させる、鮮やかな構成である。いつものことながら、エッセイストとしてのこの鮮やかな手並みには脱帽するしかない。



全体的に、最初のバージョン(自分が見つけた時には既に改稿を経ていたのかもしれないが)の方が、切れ味が鋭く「らんた氏らしい」と感じた。これから「蘇れ!SFラノベ!!」は2話3話と続いていくのだろうが、できればこちらの路線で書いてほしい、持ち味を活かしてほしいと、ファンの一人として願っている。